最近一皿100円均一の回転寿司屋に行く機会があった。5皿で1回抽選があって当たればくだらないおもちゃが出てきたり、30分回って誰も手を出さなかった哀れな寿司は自動的に捨てられる装置やチェックアウトシステムなど、それはそれで面白かったのだが、回って来る寿司の中に「トロサーモン」なるものがあった。なるほどマグロの大トロも真っ青の油の乗り具合、白い筋が入りギラギラ光っていかにも旨そうである。

しかし私は食べない。

気色悪くて食べられないのである。これは輸入物の養殖鮭でその実状を少しは知っていれば誰であっても食べはしないだろう。国内の魚養殖を遙かに越えた集約養殖で「トロサーモン」は作られる(育てられるとは敢えて言わない)。酷い場合、バスタブ一台に大きな鮭2尾という信じられない密度で詰め込まれているという。そういう、いわば通勤電車並の空間に詰め込まれ、高脂肪の餌を与えられると身は油が乗るし柔らかくもなる。しかし満員の通勤電車の中で誰かが屁をこいたとしたらどうだろう。その場合の屁はテロ行為にも等しくはないだろうか。もしその犯人が、自分のいかに大事でいかに愛している者であったとしても「このターケっ! (注:名古屋弁で田分者の意)天誅を下してくれるわ! 」という気に誰しもなるはずだ。

高脂肪の餌は鮭に下痢引き起こし、トロサーモン達は自らの汚物の中で生きているのである。限られたケージの中で数万尾がひしめいていると言うことは、病気・寄生虫の発生と伝染が非常に高いことは容易に考えられるであろう。化成肥料だけに頼った農業は地力が低下し病虫害が発生する。農薬を撒く。耐性を持った病虫害が発生する・・・。同様な事がトロサーモンにもなされている。病気・寄生虫対策に抗生物質や殺虫剤、水質浄化剤・殺菌剤など数十種類の薬品は欠かせない。同時に海洋汚染・環境汚染も引き起こしている。鮭の身の色はカンタキサンチンという色素で所謂サーモンピンクになっている。だから合成のカンタキサンチンを与えれば、「うちはだんはん好みのどんな色にも染まりますえ。染めておくれやすぅ」だ。佐藤水産社長の体験では、海外の養殖メーカーを視察したさい身の色見本カタログを見せられたそうである。

さてさて。あなたは知ってしまった。養殖「トロサーモン」食べられますか?

食後本社に隣立する佐藤水産第2工場を見学することに。この煉瓦建ての様な美術館かはたまた怪しい宗教施設かと見まがうばかりの工場は平成5年に完成したもので、厚生労働省からHACCPの認定を受けている。従って当然ながら衛生管理は徹底している。エアカーテンを浴びた後、いくつもの手足の消毒を完全にした上でなければドアが開かず工場の中には入れない。トイレも同様で、入るときも手で開けられず足で廊下のペダルを蹴ってドアがオープンするからくりが仕掛けてある。

作業所内は非常に明るく、見学者への配慮と衛生管理のため製造工程は全てガラス張りで見学しやすく、かつ外部者が立ち入ることがないのでその点でも衛生的だ。イクラなどの魚卵加工室は温度は一定に保たれ、2時間事に空気が自動的に入れ換えられるときいた。

以前見学した蟹などの水産加工工場の廃水は、すのこ状の金属カバーをかけられた排水溝を通って漁港の岸壁に穿たれた穴から直接海に流れ出していた。つまり生ゴミも何もかも一緒くたに流出させていたのだ。これって環境対策上まずいんじゃないの?と思った瞬間、半透明だった海水が突然真っ黒くなった。30~50センチはあるボラの大群が隙間のないほど大量に押し寄せたのだ。これにはたまげたが、同行していた社員とタモ網を急いで買いに行き、岸壁に腹這いになって排水がなされるたびにボラすくいに小一時間熱中した。「いい大人が・・・。」と思われるかも知れないが、これが実に面白く楽しいのである。でかいのを3・4匹はすくい上げた。転げ回って笑いこけた。こうゆう出張は極めて希で、普通は仕事をしに行くのだ。くれぐれも「出張=楽しいお遊び」などと誤解無きよう切にお願いする。

それに対して、佐藤水産の排水溝は水以外のものが流れないよう極めて狭くなっている。生の原材料が流れ出して排水システムの中で腐敗したり、カバーの裏側にくっついたりしないように配慮されているのだ。やはり美味しい食品はこのような万全の衛生管理から生まれる。ただ、全ての食品生産現場に工場を建て直せなどと言っているのではない。「古い」と「汚い」のは同意語ではない。百年以上たった建物でも掃除・消毒を徹底して、今も素晴らしい食品を生産してている所も幾らでもあるのだ。要は作り手の衛生観念とその実行の問題である。

それから車で10分ほどの距離を魚卵工場まで移動する。石狩湾の沖合では毎年9月初旬から鮭が産卵のために川に戻るため秋鮭漁が行われる。この水域の漁業権は石狩漁業組合が持っているが、佐藤水産は組合と契約し鮭を全量買い付ける。これにより漁港での競りが省かれるため港で大まかな選別後すぐに工場に搬入される。これは納入時間の短縮=鮮度確保の大きな意味を持つのである。イクラなどの魚卵製品の張りと艶、味と菌数にとって鮮度は命とも言える。

その日はイクラの製造は終わっており翌日見学することになるのだが、現場では「一口手まり筋子」の製造真っ盛りであった。鮭から取り出された卵巣はすぐに写真1の機械にかけられる。これは佐藤水産独自の開発で日本・アメリカ・カナダの特許を取得している。現在日本で出回っているイクラ類の90パーセントは米・加からの輸入品だからそれらの国の特許が必要なのだ。京都では筋子はあまり食べられず、イクラの方が圧倒的に多く消費されているが、私個人的には筋子の方を好む。ただ筋子の難点は名前の如く筋や卵巣の膜があって食べにくい。包丁で切ればドロリとした中身が流れ出し見た目にはよくないし手でちぎるのも面倒だ。

この筋子分割機は、コンベアに生筋子を入れると断続的に写真2の様に食べやすい一口サイズに分割されて出てくるのである。しかし、決して切っているのではない。切っているなら機械から排出される筋子は中身にまみれているはずだが決してそうではない。ここら辺が特許の特許たる所以なのだ。しかもよけいな筋や皮をとってもくれる。素晴らしい。(感激)

次に写真3の塩漬けの工程に移される。棒状の筋子の塩分は約5~5.5パーセントだが卵巣の膜を取り一口サイズにすることによって約3.5~4.0パーセントまで減塩される。また同じ理由で食感が良く、コクと張りのあるまろやかな熟成された筋子になるのである。この塩漬けには他社にまねの出来ないある秘密があって。(私は前から知っていたけど)発色剤(亜硝酸Na)を使わなくてもいい色に仕上がる。その「ひ・み・つ」は 当然ここには書けない。ふふふ。なんかいい気分だなぁ。次はケースに詰められ(写真4)重石をされて10日ほど熟成され出荷される。

札幌市内のホテルにチェックインしてすぐに佐藤水産直営の「海鮮まるだい亭」で夕食。「えっ! また食べるの?」しかも座敷である。正座をしたら足が痺れる正座をすればジーンズが腹に食い込む。嫌で嫌で仕方ないが飲む方に回るしかしょうがない。先ず出されたのが写真5の料理。でっかいボタン海老とホタテ、カンパチとさっきまで生け簀で泳いでいた烏賊の造り盛り合わせである。しかも烏賊のワタが添えてある。このワタを醤油に溶いてソーメン造りを食べたがやはり絶品であった。ボタン海老も旨そうであったが、私は生の海老にアレルギーがあり食べることが出来ない。ボタン海老一尾で致死量に相当する。十分加熱されたものは大丈夫なのだが・・・。

私がまだご幼少のみぎり、祇園のとある寿司屋でガキのくせに生意気にも「車エビのおどり」を食べた事が神々の怒りを買った。食べて5分もしない内に喉が先ず痒くなり、額には脂汗、顔面蒼白となってついにトイレに駆け込んだ。それ以来、生・半生の海老を食すればもどす下す。発熱する。発狂・・・はまだしていない。蕁麻疹が体中に出来、その点が面になって広がって行き、波に浸食された地中海の石灰質海岸の如く段々に腫れ上がるのだ。私を暗殺しようと企んでいる者どもよ。私を殺すのに刃物は要らない。

北海道の地酒では「根知男山」が一番のお気に入りである。私に貢ぎ物をしたいと考えている者どもよ、北海道からは根知男山にしなさい。宴たけなわとなり、一同ご機嫌で後藤課長は疲れているはずなのに出るわ出るわ件のオヤジギャグ。こっちも調子に乗り、佐藤水産で時代劇を作るとしたらどんなキャスティングにするか、これまでお目に掛かった社員の方々を配役して行く。

今村部長は「博徒の親分」
太田副社長は「落ち武者」
営業の吉田君は「呉服屋の手代」
「わたいはなんなのさ~」と後藤課長。
「う~ん。(汗)」「・・・・・・遣り手婆ァ」一瞬沈黙の間があったものの一同納得。調子に乗った勢いで明日漁船に乗り鮭漁に同行する約束をしてしまった。夜食にでもどうぞと今はやりの400ccドライバー程もある特大おにぎりを二個いただいてホテルへ戻る。午前5時出漁のため早めに休む。(つづく)

写真1 写真2 写真3
 写真4 写真5