この仕事を長くやっていますと、消費者の方の食品に対する知識の低さにびっくりすることが有ります。これほど情報はあふれかえっているのに、特に身近な物ほど基礎知識が不足しているようです。ですからここでは身近な食品の基礎知識を書いていこうと思います。先ずは鶏卵から。

この10年ほどで食中毒の原因のトップが腸炎ビブリオからサルモネラ菌になりました。
これは汚染されている玉子や鶏肉が加熱不十分な状態で食されたのが多くの原因になっているようです。

なぜこのようにサルモネラ菌による玉子や鶏肉の汚染が増えてきたのか、それはウィンドレス鶏舎=高度に機械化された大型鶏舎(1棟数万羽から十数万羽収容)の増加と関係があります。ウィンドレス鶏舎というのは、文字通り窓がない総てコンピューター管理され人手のあまりかからないハイテク鶏舎です。日本だけでなく、アメリカやオランダなどでもこの鶏舎とサルモネラ中毒は同じ曲線で増えています。

他の食品と比べて、玉子は物価の優等生と言われるほど市場価格は低価格で安定しています。スーパーのチラシの目玉に使われ、他店より10円でも安く提供しようと売り手は生産者をたたきます。当然生産者は生産コストを少しでも下げようと努力します。そこで人件費のかからないハイテク鶏舎の導入となるわけです。

ウィンドレス鶏舎の一番の問題点は、掃除の基本である水洗いがハイテク故出来ないことです。鶏は牛や豚に比べて消化管が短いため未消化の水分の多い糞を大量にします。ガス消毒では表面が乾いていても内部は水分を保っているため、完全な消毒は出来ません。雪印の事件を見ても、技術に頼りすぎれば思わぬ落とし穴に陥ることがあります。

それでは、どの様な玉子が安心・安全なのでしょう。それは昔ながらのオープン鶏舎で鶏舎を分散させ、オールイン・オールアウト(同じ日令の鶏(120日令)が一度に収容・120日令から15ヶ月間飼育されて一度に淘汰する)して、鶏が一羽も居なくなった状態で徹底的に水洗いして消毒し、その鶏舎は一ヶ月以上開ける、という昔ながらの方法での養鶏がベストなのです。この方法をとりますと、自然の防波堤を作ったことになり、万が一先の群に病気があった場合でも、次の群にうつされる心配がありません。

私どもが日本一の養鶏家として尊敬するセイアグリーシステムの伊勢社長の農場では、創業以来サルモネラ菌フリーの実績を続けています。その理由は今流行で言っているHACCPシステムを20年前から実施しているからです。

自然界には約2000種類のサルモネラ菌がいるといわれ、そのうちの100種類位のもの が食中毒の原因菌でないかといわれています。特に最近問題になっているサルモネラ、インテリティディス(SE)という種類は、親鶏の臓器に居付き、特に卵巣に居付いた場合は、産む卵、産む卵にかなり高い割合で卵の中にサルモネラ菌(SE)が入り、汚染された卵になります。鶏そのものはサルモネラ菌(SE)には強く保菌鶏であっても死んだりすることは有りません。

なお、このサルモネラ菌(SE)の保菌鶏(雄雌どちらかが)が交尾することにより次々に蔓延していきます。有精卵をつくるという養鶏場の場合、SE対策がとられていない場合が殆んどのようです。(有精卵や機能卵については次回書きます。)

セイアグリーシステムは雛を育成する農場と採卵する農場は完全に分離されて、夫々の安全システムを組んでいます。育成農場での雛餌付け前には、ランダムにサンプリングした雛の血液検査、排泄物のサルモネラ検査を出発点として継続してチェックしています。

採卵農場での埃・糞・卵のサルモネラ検査は勿論、15ケ月毎にオールアウトして鶏舎を空にし、丁寧に水洗い・消毒して1ケ月休むシステムは、サルモネラ菌を常在させない最良の方法です。正に、HACCPシステムと呼んでいいでしょう。このようにサルモネラ対策に万全に期し、薬に頼らない安全飼育システムで生産される、玉子こそ安心・安全な玉子と言えると思います。

またこの養鶏場では、出荷前の洗卵をしていません。それは玉子の表面にはクチクラ層と言われる薄い膜があって、外部からの雑菌の進入を防御しています。洗卵をするとこの層が剥がれ落ちてしまうからです。これもサルモネラフリーの自信が無ければ出来ないことです。

また養鶏には強制換羽という裏技が有ります。産卵能力が低下した鶏に、一定期間絶食などのストレスを与えて玉子を生まなくしておき、また餌を与えると産卵能力が復活するという技術です。しかしこの間に鶏の免疫力が薄れ感染が増えるという問題が指摘されています。従って強制換羽して得た玉子もさけるべきでしょう。

いずれにせよ玉子に限らず、自分のお店で扱っている生鮮食品の生産現場を見にいかなかったり知らないようなお店はさけた方がいいでしょう。