●「にがり」について
先日久しぶりに金澤を訪れました。金澤といえば大鋸さんの豆腐を思い出します。大鋸さんの豆腐を始めて食べたのは6年も前、雑誌の通販で取り寄せたのが初めでした。「なんて繊細で美味しい豆腐なんだろう。」と思ったものの代金を計算してみると、送料込みでなんと1丁800円にもなり、とても店で扱うには高すぎるとあきらめました。

その後金沢の素晴らしいスーパーマーケット「カジマート」を見学させていただいた折りふと見れば、大鋸さんの豆腐が百数十円で並んでいました。早速連絡をとり、お取り引きが始まったのでした。今思えば、雑誌にふんだくられていたようです。

大鋸さんの豆腐をご紹介する前に、豆腐の凝固剤である「にがり」について少しご説明します。塩は現在のようにイオン交換樹脂法で作られる前は、海水を太陽熱と風によって水分を蒸発させ、海水の濃度を高めて結晶化させ作られていました。その過程で塩の結晶と最終的に分離される液体が「にがり」です。つまり「塩」以外の海水を凝縮したもので塩化マグネシウムを主体とする、50種類以上のミネラルを含みます。

今は豆腐の凝固剤には、石膏と同じ成分である硫酸カルシウムが主流になっていますが、戦時中金属の合金に「にがり」が必要となり、軍事物質に指定されたため食品用として入手出来なくなったため、硫酸カルシウムが代用されたのが始まりです。これは非常に凝固力が強いため「安く・早く・大量に」生産するにはうってつけですが、豆腐の味は落ちます。

最近では「本にがり使用」と表示の豆腐が増えて来ましたが、「にがり」の生産量は少なく、また凝固させるには高い技術が必要なため、その殆どが合成された塩化マグネシウムを使用しています。しかし、「にがり」を使った豆腐が栄養面でも優れ、美味しいことは言うまでもありません。

●熱血の創始者 大鋸嘉左衛門
勤王-佐幕、開国-攘夷と激しく揺れ動く社会の流れに、「新しい時代がやってくる」と考えた越中大鋸屋村(現在の小矢部市)の若い農夫、嘉左衛門は平和な農村生活に満足出来ず、前田家百万国のお膝元、小立野に新天地を求めました。彼が選んだのは豆腐作り。人家が多く、良質の水を得られる井戸が有ることから小立野は立地条件に恵まれ、豆腐屋を開業したのは天保元年(1830年)のことでした。

当時豆腐は生鮮食品として認識され、衛生的見地と品質管理の面から、長らく前田藩は五枚町に「豆腐座」という組合を設けて、これに加入し運上金(税金)を治めた商人以外には自由に豆腐の製造を許しておりませんでした。寛文六年にこの規制は緩和されたものの豆腐屋は藩から特別に許された数人が営業を許されるという現状でした。このように豆腐屋の開業には大変な努力を必要としたのですが、若く働き者の嘉左衛門はこうしたハードルをひとつひとつ克服して行きました。嘉左衛門は、世界最古の製塩法といわれる珠洲市仁江の揚げ浜式塩田(現在でも残された文化財)で摂取される液状「にがり」を使用することにより、独特の風味持つ豆腐を完成させました。

彼の「にがり豆腐」はキメが細かく、口の中でとろけるような美味しさで、豆腐ばかりか油揚げなどでも他店にない都庁を生み出し「ツト(わら)にくるんで持ち歩いてもこわれず、時間がたっても味が変わらぬ」と評判を呼び、近郷近在からもお客が絶えず繁盛しました。こうした努力は高く評価され、天徳院(前田家三代藩主利常婦人の菩提寺)のご用商人として登用され、後には藩への出入りを許されました。

●三代目「剣術豆腐屋」助三郎
嘉左右衛門の孫、三代目の助三郎は家業を受け継いだだけでなく、その多才ぶりで大鋸の名を高めました。明治新政府実現に直面して助三郎は武道にも長じ「無刀流」の優れた剣客としてだけではなく、勝海舟と共に江戸城無血開城に大きな役割を演じたり、山岡鉄太郎(鉄舟)に心酔し、一時は家業そっちのけで鉄舟とともに国事に奔走しました。「剣術屋豆腐」「勤王豆腐屋」として有名になり、明治22年市政実施直後の金沢市会議員に当選しました。

●加賀豆腐の味を守り続ける大鋸五代目
大鋸の豆腐の伝統は、初代嘉左衛門から代吉、助三郎、弘三、そして現当主の健さんと受け継がれ、五大ののれんを守っています。健さんからいただいた手紙をご紹介します。「最近は多種の食品が氾濫し、古き良き物が隅に追いやられてしまった感じです。豆腐の表示も、天然にがり使用というものが増えていますが、ほととんどが塩化マグネシウムを溶かしたものです。天然にがりは、塩田よりの海水を釜にて塩を製造するときの副産物で、日本には能登・珠洲に一カ所残るだけで(手紙を頂いた当時)、天候によっても産出量が違います。これが天然にがりです。当店では、凝固の難しい天然にがりに変わって硫酸カルシウム全盛となった時代でも、豆腐には天然にがりを使用し、現在に至っています。当店の方針は、省力化は考えず、基本は昔ながらの手間暇かけての手造りを継承し、時代の流れに左右されない本物の味を伝えることです。」

●大鋸本店の天然にがり豆腐は、実にキメが細やかで、口に入れ舌で味わうとごとに
大豆の甘みと香りが広がり、なんともいえない自然の風味・旨味がを醸し、甘みを抑えたアイスクリームを連想させます。主成分である大豆は、有機栽培による国産大豆を50%以上使用し、もう一つの味の決め手となる水は、水道水を嫌って良質の水がわき出る井戸水を使用してします。勿論、防腐剤、消泡剤、保存料など添加物は使っていません。油揚げの油も昔ながらの菜種油と胡麻油を使用しています。

●絶品のみそ漬け油揚げ
大鋸家に伝わる「みそ漬け油揚げ」は味噌を付けたまま網で焼くと、味噌の焦げる香ばしい香りと絶妙の塩加減で、ご飯のおかずは勿論、酒の肴には絶品です。これまで品質管理の面から大鋸さんの直営店でしか販売されていませんでした。そこを無理にお願いして全国でも当店だけ特別に販売を許され、毎週金曜日に入荷します。是非豆腐ともどもお試し下さい。