よく欧米からの帰国子女の方が、「日本の牛乳はまずくて飲めないので困っている」とのお話をききます。日本の牛乳の95パーセントは日本式高温殺菌牛乳で、120度2秒で殺菌しています。

牛乳に関しての法律に厚生省の乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(厚生省令第五十二号)があって、昭和二十六年十二月二十七日に出されたものです。(以下省令と呼びます)

省令では牛乳の殺菌方法に関して「摂氏六十二度から摂氏六十五度までの間で三十分間加熱殺菌するか、又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法で加熱殺菌すること。」になっています。

62度~65度で30分というのはフランスのルイ・パツスールがワインの消毒のため考え出した方法で、パスチャライジングといいます。古くから牛乳やバター・チーズなどの乳製品に親しんでいた欧米の人は、パスチャライジングで殺菌された牛乳(以下パス乳といいます)だけを「フレッシュミルク」といいます。

外国でも高温殺菌牛乳を作っていますが、直説法と言って高温の蒸気を直接吹きかけて殺菌します。この場合、飲用乳とてはあまり飲まれず、加工用とか保存用とかペット用とされています。容器も完全滅菌され、何層にもアルミやビニールで作られた雑菌を通さない容器が使われます。日本のLL牛乳がこれに当たります。

先に「日本式高温殺菌牛乳」と書いたのは、日本では省令に「牛乳は何も添加してはいけない」というのがあり(後に改正されましたが)、蒸気もだめだということで、間接的加熱方式が採用されたのです。間接法ではいきなり120度~150度2秒で殺菌するのは無理があり、85度くらいに予熱して置いてから高温高圧をかけるのです。これも日本だけのものです。

こんな高圧高温ですから、殺菌というより滅菌です。滅菌した牛乳を滅菌していない紙製の容器に充填するのも日本だけ。滅菌された牛乳を雑菌の通りやすい紙容器に入れるのですから、これはかなりのリスクです。

超高温殺菌牛乳の欠点は、官能的にはフレーバーが悪くなり、口にべとつき感がのこり、栄養的にはホエー蛋白は完全に破壊されて、カルシウムは熱変化して吸収しにくくなることです。牛乳の臭いが嫌いだとおっしゃる方がおられますが、あの独特の臭いは加熱によるこげ臭です。

ミニ豚を使った実験では、パス乳は母乳と同様胃の中で固まり、酵素や胃液の影響でゆっり吸収されますが、超高温殺菌牛乳ではモロモロの状態になり、すぐに腸に送られます。

ミルクは母親が子どもに飲ませるものですから、人間も含めて生で与えます。だから熱による変成のもっとも少ないパス乳がおいしく栄養があるんです。

牛の乳も乳腺では無菌ですが、乳房炎や慢性乳房炎にかかった乳房から雑菌に汚染されます。省令で殺菌が義務づけられていますので、生乳の細菌数が多いものはパス乳には向きません。

超高温殺菌牛乳メーカーは原乳を農協を通じて買うとき、どの農家からも買い取り価格は同じです。どうせ滅菌してしまうのですから細菌数の多い生乳てあってもかまわないのです。当然良質の原乳を苦労して作ろうという意欲は減退します。

群馬県の東毛酪農は良質な原乳には得点を、悪ければ減点するという方法をとり、農家とメーカーと消費者が一体となってパス乳を作っている、非常に優秀なメーカーです。

細菌数の規定は省令で、普通の牛乳の殺菌後の数は1CCに五万以下で、特別牛乳では三万以下となっています。東毛では無殺菌の牛乳さえ作れるんです。加熱殺菌せず菌数二千以下の・・・。これは旨かった。県外には出荷してもらえませんが。

パス乳はまだ菌が多く残っているのでリスクが高いし、病原菌だけを選んで殺菌するのは不可能だとの意見もあります。省令は昭和二十六年のもので、当時は衛生管理に対する農家の意識が低かったし、保冷機付きのタンクローリーなどもなく、ミルク缶に入れてトラックで運ぶような時代でした。森永乳業が超高温殺菌牛乳を導入する以前は総てパス乳でしたので細菌数の多いものもありました。

でも今は牛の衛生管理を徹底的に指導しているメーカーが多く、直接人の手はミルクに触れません。ミルカーという吸引機で搾乳し、バルククーラーにパイプで送られ冷蔵されます。東毛の最高記録は1CCあたり1400だったそうです。