なぜ日本式超高温殺菌が導入されたのか、そのきっかけは森永砒素ミルク事件でした。1955年に森永乳業の赤ちゃん用粉ミルクに砒素が高い濃度で混入し、厚生省が発表しただけでも12000人が砒素中毒になり、内130人が死亡したと言う事件です。

当時森永は乳製品のトップメーカーで、原乳を広範囲で集めていましたが、当時の乳質の状態はかなり悪く、多く集めるには工場からさらに遠くまで出向き、帰った頃には腐敗寸前のものもあったよう
です。

粉ミルクを作るには原乳を加熱し80度くらいまで温度を上げる必要があります。酸化した原乳は熱に弱く凝固する性質があり、粉ミルクの歩留まりが悪くなり、また粉ミルクになっても解けづらいものとなります。そのため安定剤として第二リン酸ソーダを使うようになりました。あるとき産業廃棄物である工業用第二リン酸ソーダを仕入れ、その中に不純物として砒素が混じっていて、あの悲惨な事件に発展したのです。まあ、安定剤を使っていたのはどこのメーカーもおなじだったらしいですが。

本来なら、乳質の向上や輸送方補、規模の問題を考えるべきであるのに、また「安く・早く・大量に」の超高温滅菌という技術革新を導入し、美味しさや安全性を犠牲にして利潤に走る企業体質が現れてしまいました。これに加えてホモゲナイザーという乳脂肪を細かく粉砕して均一化させ、クリームが上部にたまらないようにする技術で、森永は売上を伸ばしていきます。

当然他社も追随して超高温滅菌に走り、こうして日本の消費者はまずい(と私の嗜好ですが)牛乳を飲まされることになりました。厳密に言えば、食品には必ずリスクは伴います。しかし、本来一番しなければならない改良改善を後回しにしていけば、砒素ミルク事件や雪印の事件は必ず再現されるでしょう。