「暮らしの手帳」1999年8・9月号に「食べ物信仰はやめましょう」おいしいものをおいしく食べるすすめという記事が有りました。大変共感出来る内容だったので長文ですが紹介いたします。

はじめに

お節介かもしれませんが、私たちから提案があります。ここらで一度「食べ物信仰」をやめてみませんか。そして、普段の食事を、もっと楽しいものにしてみませんか。

「食べ物信仰」とは、体にいいからこれを食べるとか、健康を害するから食べない、と言う態度のことです。以前からありましたが、最近とみに目立ちます。世間話のように、ごく軽い調子で、その場の話題になるのです。

「ブロッコリーがいんだってね」「ココアをのむと癌が予防できるんだよ」「納豆は血栓を作らせない作用か゛あるって知ってる?」コーヒー、レモン、バナナ、赤ワイン、しょうが、ニンニク、唐辛子、昆布、牛乳・・・・いいといれる話題の主を数えだせば、きりがありません。

マイナスパターンは、こんなふうです。「白砂糖をとりすぎると、血が酸性になってカルシウム不足になる」「化学調味料は子供の農に影響し、知能を低下させるからやめよう」・・・こちらも炭酸飲料、食品添加物、インスタント食品、ファーストフードなど、多士済々です。

一方は食べ物を持ち上げ、一方は不安をあおる・・・・正反対のようですが、どちらもおなじ「食べ物信仰」です。

この「食べ物信仰」が、私たちに大きな影響を与えています。いろいろなところから入る情報・風評のおかげで、同じ食品でもずいぶん印象が違ってきました。ためしにご近所のスーパーやコンビニの売場をごらんください。ニンジンはベーターカロチン豊富な野菜として、真っ白でおいしそうな大根はがん予防に効果のある野菜の顔で、グレープフルーツはがん、キウイは高尿酸血症の予防食品として並んでいるようにみえます。

ジュース売場にも、昔のシンプルなジュースや清涼飲料ではなく、なにかしら健康にいいというふれこみつきの飲み物が目立つようになりました。

「からだのことを考えた」「ダイエットサポート飲料」で、中身は「シュガーオフ」で「ポリフェノール入り」、「カルシウムプラス」で「食物繊維たっぷり」・・・健康に効果のあるものでなければ売り物にならないと、さまざまな成分を付け加えたたまものですが、その宣伝の言葉に誤解や間違いはないのでしょうか。また、あたかも常識のように一つの食品を「いい」「わるい」と決めつけている根拠が、間違っていることはないのでしょうか。たとえば・・・・・

1 からだにいいといわれているものは本当にからだにいいのだろうか・・・たとえばポリフェノール

ココアやチョコレートを復活させ赤ワインにブームを起こさせたもの・・・それがポリフェノールです。がんや血管障害などの原因の一つになっている活性酸素を抑える物質として、いまや食物繊維やカルシウムとならんで、食品に添加される三羽ガラスの一つとなりました。

震源はテレビ、その代表が「おもいっきりテレビ」でしょう。「食べ物信仰」を広めている旗頭の一つですが、一方的でセンセーショナルというテレビワイドショーの「方針」がポリフェノール騒動でも見事に生かされました。と、いうのも同じような作用のあるのはポリフェノールだけではないし、そのポリフェノールも、赤ワインやチョコレートだけにとくにたっぷり含まれているものではないことについて、またくふれなかったことです。

じっさい、活性酸素を抑える物質は、あらゆる食べ物に含まれていますし、ポリフェノールもこれまで食品の色や香りを変える厄介者として、いかに除去するかが問題になったくらい、たくさんの食品に含まれている成分なのです。

ごぼうやレンコン、リンゴの切り口が茶色になる(褐変)のもポリフェノールの働きなら、苺やなす、ぶどう、小豆に等に赤や紫の色を付けたのも、健康にいいと評判のお茶のカテキンや、コーヒーのクロロゲン酸もポリフェノールの一種です。

そんな事実に目をつむり、ひたすら赤ワインやチョコレートをもちあげ、それを食べれば老化やがんを予防して、健康になれるかのような幻想をふりまいたのですから、まさに「食べ物信仰」の典型です。(そこに、商魂にたけたメーカーが便乗して、一大ブームが起こったのです。)

赤ワインやチョコレートが好きなら、ポリフェノールのことなどいいわけにしないで、すきなときに、おいしく、食べたり飲んだりすればいいのです。

「食べ物信仰」を言い立てるテレビなどを、苦々しい目で見ている専門家は、少なくありません。話されることが、いまの栄養学や医学の内容と合わなかったり、学会でも認められておらず、結果として栄養教育のじゃまになっているからです。

たとえば、五月最終週の四日間、テレビ番組のなかで紹介された食品食材は、パインアップル、おから、レンコンなど五十種をこえています。そのどれもが「血液をさらさらにしたり」「がんを予防したり」するというのです。

しかし、がんや痴呆、生活習慣病などの原因には運動不足、喫煙、ストレス、肥満、遺伝など、さまざまななものがあり、けっして一つの食品(食材)をとったというだけで決まるものではありません。一つの食べ物、一つの成分を取り上げて、健康にいい、わるいをいうこと自体、間違いなのです。

思い出すのは、一昔前、大ブームになったリノール酸のことです。当時、紅花油などの植物油は、コレステロールを抑えるリノール酸がたっぷり入った健康的な油と宣伝していました。ところが、過剰に摂取するとからだによくないらしいことがわかった今、そんな看板をさげているオイルは一つもありません。

いまもてはやされているオリーブオイルにしても、オレイン酸はたしかにたくさん含まれていますが、ヘッドやラードにだって、たくさん含まれています。そしてカロリーはどの油でもおなじですから、オリーブ油に変えたといって、太らないことはありません。食卓にこれまでとはちがう風味をもたらせてくれる油、と考えたほうが無難です。

「あのテレビの救いは、予防するためにこれを食べましょうと、たくさんの食品をあげていることです。どんなものでも分け隔てなく食べよう、というのが隠されたメッセージだとわかっていただければいいのですが」と専門家は苦笑まじりにつぶやいていました。

つづく