恐ろしい本を読んだ。エリック・シュローサーというジャーナリストが著した「ファーストフードが世界を食いつくす」(原題FASTFOOD NATION)はマクドナルドやケンタッキーフライドチキン等の、世界的ビジネスとなったファーストフードフランチャイズが、人の健康のみならず、経済・社会、産業構造の根幹を崩壊させ、環境を破壊し労働者の命まで奪っている全貌を暴いたノンフィクションノベルだ。

売られている商品はたかが数百円であっても、世界中の国で数多い人々が喜んで買っているファーストフード業界はとんでもない巨大な化け物である。例えばマクドナルドは、世界に二万八千店店舗展開し、毎年二千店開店しているという。アメリカ国内においてサービス業の新規雇用の90%を担い、最大の牛・豚肉、ジャガイモの購入者であり、二番目の鶏肉の購入者でもある。知らなかったが、世界一の店舗用不動産の所有企業でもあるらしい。年間の売上は私など想像もつかない。

こういったアメリカの寡占的ファーストフード企業の購買力はすさまじく、農業や畜産業のこれまでのあり方を全く変えてしまう。以前シカゴは食肉業者が多く、高給をとる専門職が牛を解体していたが、そんなことでは間に合わずコストもかかる。そこで中央部の州に、牛が一方から入り一方から形を変えて出て行くという巨大な工場を作り、流れ作業によって処理能力を上げた。高給取りの職人など使えず、アメリカに移民してすぐの人々や不法就労者などを使う。刃物や機械を使う非常に危険で過酷な仕事で、怪我や病気が絶えず死者がでる事故など珍しくない。離職率は100パーセント以上だから、保険などの保証は全くない。このような作業環境で、しかも英語が話せない、母国語さえ読み書きできないことも多い労働者の作業だから品質は当然悪くなる。企業が要求するのはただ処理速度だけである。通常一時間に200頭~300頭が処理される。

牛の生産も個人経営の牧場は成り立たなくなってきた。国内の肉牛屠畜数の84パーセントが上位4社の食肉業者で占有され、彼らは自社の大規模肥育場を経営するか、一握りの大規模牧場主と手を結び、先物契約をする。牛の自由市場は多くの売り手と買い手がおり、それが成り立つのは両方が正確な情報に同じようにアクセスでき、同じ条件で売買出来ることが前提だが、シェアを武器に価格を操作するものがいては成り立たない。牛の相場が上がると、大手は自分の牛を流通させて価格を下げてしまう。鶏肉の場合もほぼ同様なことをして、中小の養鶏家は廃業するか傘下に入るしかない。

このような産業構造の変化は、とんでもない形で弊害が現れてきた。O-157を初めとする食中毒である。効率至上主義の大規模肥育場では飼育密度が濃く、中世のヨーロッパの都市並みで、室内から糞便を道に捨てていたのと状況は似ている。穀物を食べさせ、成長ホルモン、筋肉増強剤、抗生物質、かつては動物性飼料(今話題の肉骨粉である)を与えて短期間に肥育する。その肉骨粉も、骨やくず肉、羊、病死した牛は勿論、死んだ犬や猫まで原料にしていたというから徹底している。

最近の農務省の調査では、夏場では肥育場の牛の50パーセントまでが胃の中にO-157を保有しているという。それが劣悪な労働環境の中、非熟練者が解体するのだから肉に胃の内容物が付着することがあり、その肉が大規模な工場でミンチにされて混ぜ込まれるのだから、とんでもない食中毒生産システムを作ってしまったのだ。あのアメリカで、政府は肥育から製品までの流れをチェック出来ずにいるらしい。というのは、ファーストフード業界・食肉業界からの政治献金が共和党の上院・下院議員に流れ、レーガン・ブッシュの時代には農務省のトップに牧場主や食肉協会の会長を据えてしまった。つまりチェックを受ける方がチェックすることになる。過去にも現在でも、改良しようとする法案をことごとく強力なロビー活動で葬ってきた・・・。

読んでいて鳥肌が何度もたった。読み始めは、ちょっと誇張が過ぎるんじゃないと思ったが、読み進むうちに具体的場所、人名、年など、実に緻密な取材に基づく裏付けが感じられ、吉村昭の作品を連想させる淡々とした語り口が一層迫力を放っている。もし誇張や嘘が少しでもあれば、訴訟社会のアメリカだから著者は確実に訴えられ、莫大な損害賠償を払わせられるだろう。だからここに書いてあるのは事実なのだろう。

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