全国展開する大規模小売店が元気がない。というのも、何千坪という売り場面積に商品をいっぱい詰め込み、一見何でもそろう華やかな売場に見えるが、一方では他の大型店と比べ中身はそんなには違わない。私は大型店には出来ることなら行きたくない。

べらぼうに大きな駐車スペースを横断し、人混みをかき分けやっと目的の売場についても「私のほしいそれ」がないのなら、私の労力と時間を返せといいたい。何でもそろっているというのは、実は欲しいものがなにもないということだ。すべての人の欲求を満たすというマーケティングにそもそも無理があるのではなかろうか。

今日の朝礼でこんな話をした。梅干しは塩辛くて酸っぱいもの。塩鮭は焼けば塩を吹きあげ、脂がジワーとしみだすもの。納豆は臭く、粘りの強い糸を引くものだ。しかし、現状は梅干しを塩抜きし、甘味料で甘く味付け。何でもかんでも減塩減塩。うすら塩辛い塩鮭なんぞ旨くも何ともない。小粒で、においが少なく柔らかい納豆など納豆ではないと思うが、万人に喜んでいただこうとメーカーは賢明に商品開発に全力をあげている。マスにおもねる商品作りがもたらした食品の中で、いくつのものが生き残っていけるのだろうか。

われわれ小規模な小売店の、小規模であるが故の弱点は多々あるが、裏を返せば強力な強みでもある。すべてのお客様の欲求を満たすなんて、端からできっこないのだから。それなら、自分の店のお客様の欲求だけを満たせばいいのだ。自分の店のお客様の食卓を考え、想像し、提案できる様になればしめたものである。

たとえば総菜でも、安易に冷凍食品を加熱するだけではだめで、手作り、しかも出来る限り本格的な料理をだそう。うちの麻婆豆腐は辛い、豆腐は堅い、値段は高い。以前はミンチを炒め、豆腐を入れて出来合の麻婆豆腐のたれをかければ出来上がり・・という安易な作り方をしていた。万人に受ける、とろっとした柔らか豆腐の甘い甘い麻婆豆腐である。麻婆豆腐は四川料理。これはちがうやろ!

今は、テンメンジャン・豆板醤など調味料を自店で組み合わせ、金沢から取り寄せた固い豆腐を使った本格派を作っている。これは辛い! 子供は泣くかもしれない。だからお子さまには食べさせないで欲しい。辛い、四川料理としての麻婆豆腐を食べたい方々にだけ買っていただきたいのだから。

この麻婆豆腐を作り始めると、調理場の全員がドアの方まで避難する。唐辛子の成分が室内に充満し、ほとんど毒ガス状態となり、目や鼻や喉の粘膜を刺激するからだ。幸いなことに、まだ救急車で運ばれた重傷者は出ていない。