我が家の愛犬は「ペチュ」。9才女性。全身が白く、背中の一部に淡いベージュの帯が走る。息子が小学校のとき、3匹の兄弟姉妹と共に段ボールの箱に入れられ、捨てられていたのを拾ってきた。

おきまりの「僕が絶対世話をするから。約束する。ねぇ飼ってもいいでしょ。」との一段があり、根っからの動物好きな私は内心嬉しく思いながらも、家長としての威厳を込めつつ「う~ん。まあいいだろ。」しかし今に至るまで「世話をする」約束は一度も守られていない。

かわいい犬である。手足の長い、尾の豊かな、綺麗な犬である。気持ちの優しく攻撃的なところが全くない、どんな犬でも「あそぼか?」と機嫌良く寄っていく社交的な犬である。誰でも自分の子どもや犬猫が一番可愛く思うものだろうから、よその犬猫が総てブスに見えるのもしかたがない。

仕事から帰ると飛びつく、走り回る、お手をする、の一連の歓迎セレモニーがあり、その後背中を向けて座ってしまう。背中をもめとのポーズである。右手で背中をマッサージしている内、左手が遊んでいると鼻を突き上げて首ももめとの催促。横着なやつでもある。

美容院が大好きで。ペットサロンの前を通りかかると勝手に入ろうとする。シャンプーが終わったとの電話有り。迎えに行き、散髪代の二倍もの代金を払い、さあ帰ろうというとき、「帰らへん。ここの子になる。」と足を踏ん張りダダをこねる。なさぬ仲とはいえ、これまで育ててやった恩を忘れたか、と足蹴にはせず抱いて店を出る。そこまで来ると何度も振り返り、未練を残しつつも仕方なく、運命に従いとぼとぼ家路につく。

長年の間に、普段は庭の大犬邸宅に寝起きしているが、シャンプーに行った日だけは家に上げるという慣例が出来てしまった。犬は社会的な動物で、群の中での順位を付ける。我が家では勿論私が第一位、家内が同列一位か又は二位、自分は三位だとこいつは確実に考えている。息子は今年大学入学だが、今でも彼女の意識では最下位だと考えておるのは間違いない。

しかし、その順位も私が酔っぱらったことを感じ取るとたちまち入れ替わり、私が最下位となる。「にゃー」と鳴けと鳴くまでしつこく教え、「努力が足らない」と説教をたれ、また「にゃー」と鳴け。鳴くわけがない。もう二度とこの日は私のそばにも寄らない。

子犬は一時期、成長の段階で歯が痒くなるのかいろんなものを囓る。家族それぞれ高価な靴、安物の靴、不潔な靴をひととおりやられた。赤ちゃんから幼犬への一番可愛い時期である。笑って許した。許したどころかボールだの、骨の形をしたぶうぶういうおもちゃだの、ぬいぐるみだの、丸めた靴下だの、猫、は与えなかったが、喜びはしゃぎ回る姿を慈しんだ。

しかし事件は起こった。ある日朝起きて新聞をとりにいったその時である。ふとみると愛車ポルシェカレラ4のバンパーがおかしい。全体がおろし金の様にささくれ立っている。もしやと思い後部を見ると同様の惨劇であった。前後左右のフェンダーも囓られている。「こら!ペチュ」との大声に家族も起きだし、事情を察知。犬は現行犯でしからねば、自分は何でこんな虐待を受けているのか分からない。そんなことは承知の上。

またまた、おきまりの「お父さん。ペチュと車のどっちが大事なの?」「どっちもじゃ!」と捨てぜりふを残し出勤する。頭の後ろから「ペチュ怖かったね。もう大丈夫よ。」「お父さんなんか噛んだり!」とのささやきが聞こえ、怒り益々高まる。

拾い子だからイニシャルコストは他の血統書付きの犬の様にたいしたことはない。せいぜい赤い首輪と引き綱くらいのもので済んだ。しかし、バンパー前後アッセンブリー交換、フェンダー前後左右板金塗装、フェンスの設置費用、締めて約100万コース。夏場には何も食べなくなり、痩せていく一方。獣医に連れていくが点滴しましょうと一回7千円を一週間。ランニングコストの高くヤツである。しかし、しかしだ。やはりよその犬猫の、何とぶすに見えることか。