このところ多忙である。いつもの請求書の整理・入力作業に加えて「お茶漬けいわし」の製造に追われているからである。日記の更新もままならない。「お茶漬けいわし」とは、私が子どもの頃から母親が作っていた一種の佃煮の様なものである。「様なもの」とは、これには砂糖や水飴など使わず、テリを出すため味醂をわずかに加えるだけだから甘みはほとんどない。醤油と酒、生姜と昆布だけで骨が柔らかくなるまで炊きあげ、カラカラになる直前のややしっとり感を残すように天日干しする。

大分の親戚付き合いしていた家の次男坊が、京都の料亭に丁稚奉公し、何年か後に独立して故郷に料理屋を開いた。その次男坊が遊びに来た折りに伝わったのが「お茶漬けいわし」である。しかし当時は、魚の一匹一匹が大きく、骨が歯にさわったのを覚ているので当時は大羽いわしを使っていたように思う。いつの頃からか母親は今じぶん採れる平子いわしを使うようになった。

日本で取れるいわしには「真いわし」「片口いわし」「うるめいわし」の三種類があり、真いわしは成長の段階で呼び名が区別され、体長3~10センチを地方により小羽とか平子またはコベラ等と呼ばれている。母親の試行錯誤の結果、梅雨の頃に取れる平子が一番「いわし茶漬け」には向いているそうである。これより小さいと身が崩れ何より作業が面倒なそうな。これより大きくなると油が乗って、煮ると身がはじけてしょうがない。家庭でこの茶漬けを作るのは大変である。出来るだけ底の面積の大きな鍋を用意し、出汁といわしがくっつかないために昆布を敷き詰め、いわしをできるだけ重ならないよう並べて醤油と酒を加えて煮る。焦げ付かないよう、汁をかけながら付きっきりで見ていなければいけない。

骨まで柔らかくなったら一晩おいて干しにかかる。釣り具屋で買ってきた、干し網に丁寧にいわしを並べ風通しの良い場所で陰干しにする。しかし何分梅雨のこと、なかなか上手く乾かず、扇風機を当てたりクーラーの前に吊したり何とも大変である。

これを何とかラクチンに作れないものか、スチームコンベクションオーブンで出来ないだろうかと考えた。スチームコンベクションオーブン、通称スチコンは「揚げる」以外の調理が可能なオーブンで、「蒸す」「焼く」「蒸しながら焼く」「加湿しながら焼く」「炊く」などが出来るすぐれものの調理機械である。温度は1度単位、時間は1分単位で設定できる。

実験開始。この日は、鮮度の良いいわしは平子というのにはいささか小さいサイズしか無かったが仕方がない。いわしの頭と内臓を取る作業は省力化できないが別に苦にもならず、鮮度が良いので鱗が手に着き、作業が終わる頃には左の手のひらは蛇皮状態。

ホテルパンにクッキングペーパーを敷き、昆布の上にさっと洗ったいわしを並べて行く。感だけで醤油と酒を入れ、生姜の千切りを上からちらしスチコンに入れる。200度でとりあえず60分加熱することにした。20分に一度、様子を見、汁をかける。60分で丁度骨まで柔らかくなり、「テリ」も良い。ただちょっと塩辛すぎるか。その後穴あきのホテルパンに移し、70度でオーブンモード120分で乾燥させる。かなり乾燥は進むがやはり仕上げは扇風機で一晩乾かす。

やはりスチコンを使えば作業はずいぶん簡単で手間いらずだ。焦げる心配もないし、形も崩れず、多くが尾鰭を付けたまま仕上がっている。煮上がった段階の塩辛さも、角が取れてなかなかのもの。ビールが欲しい!

本格的に量産しようっと。