「社長、Sさんという方がご面会ですが・・・」Sさん? 誰だろうと思いつつ事務所に案内するよう指示した。ドアから顔を出したのは丁度30年前にうちで働いていたS氏だった。彼は大分の実家を家出し、あるつてで同郷である私の父親を頼り身を寄せたのだった。その後神戸の老舗喫茶店で修行し、異人館「うろこの家」で独立して喫茶店を開いた事までは知っていた。30年も時間が流れていたにも係わらず、一目で彼と分かったのは当時と同じ笑顔だった。笑うと目尻に特徴のあるしわが出来る、人を安心させてくれる笑顔だ。

彼は「さしみバーガー」という何とも不思議なものを作っているらしく、デパートの歳事で京都に来て、自転車でうろうろしているうち、店の前にたどり着いたらしい。聞けば「さしみバーガー」は雑誌やテレビなどにも良く取り上げられ、かなり有名な食べ物らしい。昔のこと、お互いの仕事のことを話し、時間を忘れた。その後私の両親も懐かしがるだろうと4人で食事をし、また合おうと約束して分かれた。

先週、彼から電話があり相談に乗って欲しいとのこと。今日の午後からの約束をした。今度、大阪府羽曳野市にさしみバーガーの支店を出す計画があり、バーガーショップとパン、惣菜を売る複合店にしたいとのことで、調味料や食品の物販も併せた店舗にしたいので、そっちの方を教えて欲しいということであった。「私に出来る範囲なら協力しますが先ず現場を見なくては・・・」ということで20日に羽曳野まで出かけることとなった。

最近特にこのような仕事が多くなった。あちこちのスーパーから助言を求められ、コンサルタントにでもなったような気がしてきた。今はどの業界も苦しいが、スーパーマーケット業界は特に厳しいのはご存じの通りである。大手は勿論中小の店まで総て厳しい。

相談されたお店に共通する部分はかなりあって、消費者の生活シーンは確実に変化しているのに、経済が右肩上がりだった頃のいい思いをした経験を忘れられずに、未だにその頃の商売を続けている。当時は面白いほどよく売れた。一生懸命、命を削るように商売をされてはおられるのだが、空回りをしている。本を読んだり、セミナーに参加したり、他店を見学に行ったりする時間的な、また精神的な余裕など多くの場合ないのが小さなスーパーのトップの現実なのだ。

私が先ずその様なスーパーの社長に聞くのは「どんなお店にしたいのですか?」という質問だが、たいていの場合答えが返ってこない。それを明確にしないことには、どんな目標を目指して頑張るのか従業員にも分からず、ただがんばれと言われても右往左往するだけである。まず理想とする店を描き出し、今の店との差を考える。その差が問題点であり、それを一つ一つ解決して行きましょうとアドバイスしてあげている。

「お金にもならないのに自分の会社の仕事をしなさい!」とアベルにしかられるが、ちょっとした一言でお店が変わっていく様子を見るのは実に楽しい。